日本での刷毛の起源ははっきり分かっていません。考古学上からは縄文土器時代、弁柄や朱の彩色品が広く出土していることから、すでに刷毛の原型といえるものがあったとする説があります。飛鳥時代以降になると、大陸文化の伝来と共に、建築、漆工芸、製紙、染色などの技術も伝わり、漆刷毛、糊刷毛、染色刷毛などが作られ始めます。鎌倉時代以降は、武具・馬具・その他装飾品の塗装も行われますが、特殊な高級技術として限られた範囲で伝承されるにとどまっていました。
江戸末期に黒船でペリーが来航し、様々な品と共にペンキがもたらされてから一般に塗装用刷毛という存在が広まりました。最初のペンキ刷毛は、外国製のコッピー刷毛の模倣から、さらに外国人が2インチのカスト刷毛の注文を受けた刷毛職人が工夫をこらして、一寸六分の寸筒型の刷毛を作ったのが始まりと言われています。それが日本で刷毛製造技術が著しい発展をとげるきっかけとなりました。時代が進むと共に塗料の発展と、建築や橋梁の鉄部の塗装・保護・防腐のためにも、そして美粧へと広範囲に用途が拡大し、それにともなう各種の刷毛の開発もめざましく発達し、塗装の分野を大きく広げ今日に至っています。
“刷毛(はけ)”という文字が使われたのは1711年寺島良安編和漢三才図絵に、
「髭筆・刷毛・和名・波介 ・以漆塗物也
俗為 二 刷毛一と
蓋刷 の音は 拭也
以二 飯糊一 継二 紙等一 用レ之・・・」
と記されたのが最初と言われています。
さらに古い文献では「
神社の御札、錦絵などの版画に用いる刷毛(はけ)は、使用時にも「刷毛(はけ)で刷る(する)」といい、印刷の「刷」の字を用いることは意味の上からも合っています。